「――……ねぇ、ラシュウ?」
窓の外を見ていた精霊は、少女の声にはっと我に返った。
「……どうした?」
くるりと顔だけをめぐらせて、寝台に横たわる少女を見やる。
彼女は真っ直ぐ天井を見ていた。
「……あのさ」
ぽつり、とこぼれ落ちる言葉。
「外の世界ってさ、どんなのかな?」
「………………は?」
一瞬、息が止まった。
平静を装って絞り出した声は、酷くか細かった。
「だから、外の世界だってば!」
けれど、変化した声音に少女は気付くことなく、逆に声を荒げて飛び起きた。
「いきなり何だよ……?」
精霊は落ち着いた声で問いかけると、彼女はきょとんとした表情を見せた後、まるで夢物語を語る子供のような顔になった。
「長の話を聞いてからさー……こう、何ていうかな。うずうずしてるのよ」
それはいつの日のことだったか。
長が話してくれた外の世界というものに、胸が躍るような気持ちになったのだ。
何故なのかは分からない。
けれど、その日から心のどこかでいつも外というものを夢見ていた。
「どんなものなのかなぁって……」
「興味あるのか?」
「え?」
かぶせるように告げられた言葉に、素っ頓狂な声を上げてしまった。
半ば呆然としながらも精霊へと視線を投じると、彼は真摯な瞳を向けてきていた。
「だから、興味あるのかって聞いてんだよ」
それは確認するようにも、断定しているようにも聞こえた。
「う、うん……まぁ……」
そんな彼の態度に気圧されて、尻すぼまりな返答となってしまった。
「……」
精霊は何も言わずに少女を見つめる。沈黙が場を制し、まるで何かを見極めるかのような彼の行動に、内心落ち着かない。
「……ふーん」
しかし、その視線が和らいだと思った瞬間、落ちた何ともいえない気の抜けた台詞に、寝台から転げ落ちそうになった。
「ふ、ふーんって何よっ!」
何だか身構えてしまった私が馬鹿らしいじゃない!
さらに言いつのろうとした所で、精霊に「うるさいっ!」と怒鳴られて、ぎょっと飛び上がった。
「――――……」
精霊は何かを言おうと口を開き、しかし何も出てこなかった。
「…………とりあえず」
変わりに別な言葉を探し出す。
「寝ろ」
「んなっ」
その台詞には少女も予想外だったのか目を丸くした。かくいうその言葉を発した本人でさえも、何故そんな言葉が出たのか内心驚いている。
けれど、話を逸らせるのなら何でも良かった。
「俺は眠いんだよ」
はぁ……と小さくため息を吐きながらそう言うと、少女は納得がいかないとばかりに顔をしかめていたが、やがて諦めたのか体を横に倒した。
彼女が寝入るのをそっと横目で見つつ、ふと視線を逸らした。
窓の外。明かりのない里は真っ暗で、ただ空に瞬く星の輝きが目に入った。
「………………外、か……」
独り言ちる声を聞く者はいない。
窓ガラスに映る自分自身の姿を見て、瞼を落とした。
「外なんて、暗いばかりだ」
いつでも外は眩しすぎて、そして暗かった。