蒼燐花岩セリラーマの魔装具

 蒼燐花岩セリラーマには護りの力が宿ると云われている。というのも、見た目は何の変哲もないただの黒い岩だが、中を削っていくとごく稀に蒼い結晶が出てくることがあり、驚いたことに魔力が含まれているのだという。その魔力がどうやら護りの力を秘めていて、その結晶を銀鋼木バルグド――これもまた珍しい魔力を帯びた樹木――の枝で作った素材と組み合わせて作られるのが、護りの力を秘めた魔装具だ。
 風の噂でそれを耳にしていたカヴィウズは、それを胡散臭い代物だと思っていた。とうの昔に失われてしまった魔術でもあるまいし。
 だが、実際に友人がそれで助けられたという話を聞いて興味を持った。疑わしいことに変わりはないが、まずは実物を拝んでから考えようとある港町に足を運んだ。その町に魔装具を作っている職人がいると聞いたからだ。
 ――それを作っているのが己よりも一回りも年下の少女だったというのだから、初めて対面した時の驚きは今でも忘れられない。
「できたわよ」
 物思いに耽っていたカヴィウズは、少女の声にはっと意識を現実に戻した。
 目の前に座っている少女――レスティこそ、その魔装具職人だ。意志の強そうな切れ長の目の下に、うっすらと隈ができている。前に会った時よりもどこか疲れきった表情を浮かべているのは、仕事が忙しかったからだろうか。
「おう。相変わらず丁寧な仕事をするな」
 受け取った魔装具を眺めるように不備がないか確認する。彼女の腕を疑っているわけではないが、当の本人が隅々まで確認しろとうるさいのだ。特に問題がないのを確認して、直したばかりの魔装具を首から下げる。
「問題ないな」
「そう、良かったわ」
「で。今日の仕事は終わりか?」
 そう問いかけると、レスティは曖昧に頷いた。その反応からして、特に急ぎの仕事は残っていないのだろうと見当をつける。カヴィウズはその小さな手を掴んで引っ張ると、無造作に抱き上げた。ぎゃあ、となんともかわいくない悲鳴が上がる。
「ちょっ!? なにするのよ!」
「お前仕事し過ぎ。気分転換に外行くぞ」
 全く。この仕事しか頭にない少女をどうしてくれよう。
「お前、あれ好きだよな。ユズィルの砂糖菓子。今なら俺のおごりだがどうする?」
「……しかたないわね」
 渋々といった風に、けれど顔には喜色を浮かべて。この辺りはまだまだ子供なんだなぁと思いながら、カヴィウズはレスティを抱き上げたままに菓子店へ足を進めた。

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