「ねぇほんと意味わかんないんだけど!」
「悪いなぁお嬢さん。あ、そこ右」
言うのが遅い! 足に力を入れて急停止、くるりと体を反転させて右の道へ。バタバタと路地を駆け抜ける。
「逃がすな! おい、待ちやがれ!」
後ろから聞こえてくるのは、それはもう柄の悪い男の声。待てと言われて誰が待つか!
「もうこんな時計捨ててやるんだからあああ」
「いやいや、俺がいるからね。捨てないでね。捨てたら怒るよ」
俺のご主人様が。
少女の手の中にある少し古びた懐中時計から聞こえる男の声。時を自由に操れるという、その時計の精霊はのんびりと次の道を示す。
なんで私がこんな目に!
配達屋の少女は今日も元気に荷物を運ぶ。ほんの少しの非日常を連れて。
(『300字SSポストカードラリー企画』第6回参加作品)
配達屋の少女の元に懐中時計の配達依頼が。いつもと変わらない日常だったはずなのに、その懐中時計によって一気に非日常へ駆け出した。
「ありえないわ……配達料金上乗せしてやる……ついでに迷惑料も貰う……絶対だっ……!」
「おおこわっ。ほら、お嬢さん。お金貰うにしても俺をちゃんと届けておくれよ」