晴天。満開の桜。大安。
今日はなんて良い日なんだ。大木の桜の枝に腰掛けていた精霊は、ひとつため息をこぼした。
「なぁにため息ついてんのよ。幸せが逃げるでしょ」
耳に届いた声に視線を下へ向ければ、白無垢に身を包んだ美しい娘が立っている。
ついこの間までふにゃふにゃの嬰児だったのに、時が流れるのは早いものだ。
「いい加減、祝福に来てくれないと式が進まないんだけど?」
精霊の宿る桜を守り続ける一族の慶事に言祝ぎを紡ぐ。大役だが、生まれた瞬間から知っている者が遠くへ離れていくのは、少しだけ、寂しい。
そんな思いを胸の奥に隠し、精霊は「仕方ないな」と呟いて、歓びに溢れる場所へと向かった。
(『300字SSポストカードラリー企画』第4回参加作品)
樹齢数百年の桜の大木に宿る意地っ張りで実はさみしがりやな精霊と、その桜を守る一族の元気だけが取り柄な娘の婚儀のお話。娘はちょっと離れたところに嫁ぎますが、ちょくちょく帰省してくるので、精霊が寂しさを感じる暇はない。
「それにしても、馬子にも衣装だな」
「あんた失礼ね!」