満月の時は“むこう側”の友人と話ができる。陶磁器の尺皿に霊水を注いで花を浮かべると、揺らいだ水面のむこうに、合わせ鏡のように私と同じようで少し違う顔が映し――
「なんでまたおっさんなの!」
 水面に映った男に怒声を浴びせれば、彼は目を丸くして「仕方ないだろう!」と叫んだ。
「ハナミズモリ様もお忙しい方なのだ!」
 そう言われてしまえば口を噤むしかない。
「……わかったわよ。じゃあ、次の時に」
「ま、待て! もう少ししたらハナミズモリ様が来るからもう少しだけ待て!」
 言葉を遮るように大声を上げるものだから、思わず顔をしかめる。だが、男がなんとも情けない表情をしているので、仕方ないとしばし彼との雑談に付き合うのだった。

『花水守の水鏡』紙面デザイン

(『300字SSポストカードラリー企画』第3回参加作品)

水鏡を通して対話するこっちの少女と向こうのおっさん。少女の名字が「花水守」だったり、おっさんが少女に一目惚れしてて引き止めようと奮闘していたり、向こう側のハナミズモリ様がそんなふたりの様子を別な水鏡で観察していたり、という裏話があるのですが、それはまたの機会に。

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