本と彼女と

「まさか字が読めないとはなぁ」
 アダルベルトがしみじみと呟くと、ラウラは苦笑いを浮かべた。
 彼女は飛獣ひじゅうである。人と同じ言葉を喋り、意思疎通ができるからと気にしていなかった。
 飛獣の世界では文字というものは存在せず、何かを伝えるにも口伝だけなのだという。
 喋る言葉はわかっても、文字ではわからない。
 そんな彼女の葛藤がアダルベルトは気がかりだった。
「……早く文字を覚えたいんです」
 意気込むように呟いて、彼女は本に視線を落とす。
 それは幼子に文字を教えるための教本。少しでも彼女の足しになればと探してきたものだ。
「慌てなくても本は逃げないから、ゆっくり学べ」
 ぽんぽんと労るように頭をなでれば、彼女は照れくさそうに頬を赤く染めた。

「本と彼女と」紙面デザイン

(『300字SSポストカードラリー企画』第1回参加作品:2015.03.08)

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